皮膚の光老化とその予防に関するコンセンサスステートメント

光老化コンセンサスステートメント発行に寄せて

みらい検討委員会委員長 宮地良樹

光老化は自然老化とは質的に異なること,制御可能な皮膚加齢現象であることから,光生物学・皮膚科学・香粧品科学などの領域では30年ほど前から基礎研究とともに光防御の啓発活動も行われてきました。とくに日本香粧品学会では,サンスクリーンという有力な予防の武器を開発してきた経緯から,自ずと光老化啓発には力点を置いてきました。しかし,2016年に行われた「12~70歳の男女各150名のインターネットリサーチ」によれば,光老化の認知率は僅か4.2%ときわめてショッキングなデータが公表されました。SPFという用語の認知率が10.9%であることを勘案しますと,光老化の基本的なコンセプトがよく理解されていない情況で,サンスクリーンの使用に当たっての実用的な知識はコマーシャルなどによりある程度普及していることがうかがわれました。光老化予防は整容的のみならず,皮膚がんも含めて医療経済上もきわめて喫緊の課題と思われますので,一層効果的かつ実用的な啓発活動が求められていると思います。
そこで,日本香粧品学会みらい検討委員会では,2016年から開始された光老化啓発プロジェクトの一環として,光老化に関するコンセンサスステートメントを公表しようと考えました。光老化研究は,光生物学・皮膚科学・香粧品科学の学際領域にあるので,研究者間でもその定義や病態をめぐって齟齬があってはいけません。皮膚の光老化とその予防に関するコンセンサスステートメントでは主に研究者や臨床医向けに,その定義,紫外線の皮膚に対する作用,ビタミンD産生も含めた光防御の功罪,サンスクリーンを中心とした光防御の手法などについてかなり精緻な意見交換を経て網羅的にまとめました。策定に当たっては皮膚科医,薬学研究者,香粧品技術者などの叡智を結集したつもりですので,かなり完成度の高いコンセンサスステートメントになったと自負しています,このコンセンサスステートメントを理解することで,まず光老化認識の出発点にするとともに,最後の「結論と推奨」をまとめることで,一般社会に対する啓発の統一的見解を共有できると考えました。
さらに,一般向けのコンセンサスステートメントでは,平易な表現を用いて光老化についてわかりやすく解説するとともに,紫外線に関する知識,紫外線防御手法などについても簡潔にまとめました。光老化が一般の人々にとってもっと身近であるべきという視点から,日本香粧品学会の社会的使命として,その啓発に尽力すべきと考えたからです。今後,このステートメントを関連の各学会とも共有することで,光老化のアピールとしてより信頼度を高め,貴重な情報発信ツールとなることを期待してやみません。

光老化コンセンサスステートメント発行によせて

光老化コンセンサスステートメント編集委員長 森田明理

日本香粧品学会みらい検討委員会では,2016年から開始された光老化啓発プロジェクトの後方支援の一環として「皮膚の光老化とその予防に関するコンセンサスステートメント」の策定をしました。光老化啓発プロジェクトでは,光老化の定義と概念を一般市民に広く認識してもらうこと,すなわち,シワ,シミ,たるみなどが,紫外線をはじめ可視光,赤外線を含む太陽光を浴びることにより現れるという認識をもってもらうこと,そして,これらを防ぐための,日常的なサンスクリーン製剤使用の重要性についても理解してもらうことを目的としています。さらに,海外では当たり前のように認められている日常的なサンスクリーン製品の使用による,光老化の予防効果,というものを,日本における化粧品の効果効能として新たに獲得することにつなげることにもつながります。
このたび,みらい検討委員会メンバーをコアメンバーとしてさらに業界のワーキング委員とともに,二つのコンセンサスステートメント(主に研究者や臨床医向けと一般向け)の策定を行いました。1989年に,米国 National Institutes of Health(NIH)が発行した,「紫外線の皮膚に及ぼす影響」のコンセンサスステートメントを基本骨格として参考にし,できるかぎりわかりやすい内容になるように,現時点までに報告されている論文および書籍等をもとに,「太陽光,紫外線及び皮膚との関係」に関するコンセンサスステートメントを,香粧品学会として発行することができました。項目としては,皮膚の老化,太陽光線,紫外線の皮膚に対する作用,紫外線防御,サンスクリーン剤の使用による光老化予防効果,結論と推奨を含め,網羅的にまとめました。メンバーで一字一句細かい議論を重ねて,さらにみらい検討委員会でも複数回意見交換を行い,まさにコンセンサスステートメントとなりました。最後の推奨文では,「紫外線を主とする太陽光線により皮膚にもたらされる美容的な問題(光老化)から皮膚がんに至る有害な変化を最小限にとどめるために,太陽光線への無防備な暴露を避けるように生活習慣を改善することを心がけ,サンスクリーン剤の適切な使用を行い,帽子・日傘を常用し,防御効果のある適切な衣服を着用することが推奨される」とし,皮膚科医,薬学研究者,香粧品技術者などの一般社会に対する啓発の統一的見解を示すことができたのではないかと思います。
なお,一般向けのコンセンサスステートメントも策定し,平易な表現を用いて光老化についてわかりやすく解説するとともに,紫外線に関する知識,紫外線防御手法などについても簡潔にまとめました。このことにより,光老化啓発プロジェクトを後方支援するとともに,常に参照できるバイブルとしての機能を持たせることもでき,国民が健やかな生活を過ごせる社会の維持に貢献できるものと考えます。また,本ステートメントは,香粧品学会のみならず,さらには,皮膚科学会を含めた関連学会など,紫外線による生体への影響に関する研究を進める学会にも,賛同をお願いしていきたいと思います。

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